AphasiaBankJapan:失語症データバンク
AphasiaBankJapan
失語症データバンク
失語症の研究と教育のためのデータベース
AphasiaBank英語データについて
英語のデータには、AphasiaBank談話課題を行った失語症者のデータ、定形外のデータ(原発性進行性失語含む)、有名人課題(Famous People)を行ったデータが含まれており、失語症のある人や脳損傷の既往のない人のビデオやトランスクリプトが掲載されています。このページでは,英語話者を対象とした課題の構造について説明をします。
談話課題の構成
手続き
調査者(ST)と参加者の1対1の対話を行う。調査者は予め決められた質問を行い、それに対する参加者の反応をビデオカメラで記録する (撮影方法の詳細は当HPの「AphasiaBank日本版」→「ビデオ撮影と書き起こし作業」ページに記載) 。文化的背景を考慮して、内容は変更してよいことになっており、英語以外の言語の場合、設問を若干変更している場合が多い。
実施項目 (英語版)
*失語症のある方に対する課題とその流れ
課題 I. 自発話サンプル
A. 脳卒中の発症と対処
発症時の状況、回復と対処について
B. 人生における重要な出来事
課題 II. 情景画説明
1枚または複数の絵を提示、ストーリーを説明
A. 割れた窓-4枚の絵の説明
B. 断った傘-6枚の絵
C. 猫の救出-1枚の絵
課題 III. 物語説明
"シンデレラ" のストーリー説明(はじめに文字を隠した絵本を見てもらい、そのあと本は見ずに話す)
課題 IV. 手続き説明
ピーナツバターとジャムサンドイッチの作り方の説明
*失語症のない方に対する課題とその流れ
課題 I. 自発話サンプル
A. 経験したことのある病気またはけがについて
発症時の状況、回復と対処について(失語症のない人の場合、現在までに経験した病気・けが)
B. 他の人とコミュニケーションを取る時に何か困った経験
その後は失語症のある方と同一の質問
オンライン会議システムを用いた実施
英語版では上で紹介した対面での実施法に、オンラインによる方法(台本を見ながら)、オンラインでパワーポイントを使って実施する方法が紹介されている。それぞれに失語症のある方用/失語症のない方用のバージョンがある。
英語版で実施する検査
失語症者
1 AphasiaBank 復唱テスト (2007)
2 動詞呼称テスト (The Northwestern Assessment of Verbs and Sentences-Revised, Field Test Version)
3 ボストン呼称テスト (BNT) 第2版, 短縮版 (2001)
4 WAB失語症検査第2版 (2007) -- AQ のみ(「Ⅰ.自発話、Ⅱ.話し言葉の理解、Ⅲ.復唱、Ⅳ.呼称」のみ
行えばよい。「Ⅴ.読み、Ⅵ.書字、Ⅶ.行為、Ⅷ.構成」は行わなくてもよい)
5 Comprex Ideational Material-Short Form (BDAE 2001より)
6 文の理解(フィラデルフィア理解バッテリーより)
各検査の概説
WAB失語症検査(Western Aphasia Battery)
・カナダのKertesz(1979)が作成
・杉下らによるWAB失語症検査 (日本語版) (1986) が使用されている
・8領域31の下位検査からなる総合的失語症検査 (言語は4領域) 、内容的にはBADEを修正・短縮したもの
・言語以外に、行為・構成行為・視空間行為 (描画・積木・レーブン色彩マトリックス検査) などの課題も含み、
検査全体の成績から大脳皮質指数(CQ)が得られる (非言語検査項目の施行については任意)
・口頭言語課題の成績から失語指数(AQ)を算出、失語症の有無や重症度の判定の目安とできる&課題成績から
失語症タイプ分類可
・所要時間約2-4時間(AQの算出までは1時間程度)
BNT(Boston Naming Test)
・Kaplanら (1978)が作成
・英語圏で使用される標準的な呼称検査
・線画60枚の呼称
・誤った場合、決められた意味的ヒント→音韻的ヒントを与える
・高頻度語~低頻度語が含まれる
・15語を抜粋した短縮版がBADE3に含まれる
・課題語に「ハープ」「ドミノ」「イグルー」などが含まれるため、適用には文化的背景を考慮する必要
がある
BADE (Boston Diagnostic Aphasia Examination) ボストン失語症診断検査
・Goodglassら (1972)が作成
・日本語訳は笹沼ら (1975)
・失語症の重症度評価尺度(会話の理解表出の状況を0-5の6段階で評価)は日本でも有名
脳損傷の既往のない方
1 GDSうつスケール (自記式)
2 MMSE (修正得点)
3 視聴覚スクリーニング
各検査の概説
GDS(Geriatric Depression Scale)高齢者用うつ尺度
・Brinkら (1982)が作成
・本人がはい・いいえで回答する
・原版は30項目だが15項目の短縮版(Sheikhら 1986)があり、5-7分で試行可能
・日本語版の訳は数種類ある (ネット上にも)
・5点以上がうつ傾向、10点以上がうつ状態GBS簡易版日本語訳 (松林ら 1994)
・6点以上はうつを示唆する (杉下らのGDS-S-J 2009)
MMSE (Mini-mental state examination)
・Folsteinら (1975) が作成
・国際的に最も使用されている簡易認知機能検査
・時間・空間見当識、即時・遅延記憶、計算、呼称、復唱、口頭命令による動作、独自、書字、図形模写の
11の下位検査
・30点満点、23点以下が認知症疑い。27点以下は軽度認知障害 (MCI) が疑われる
・杉下らによるMMSE-J (2006、改訂版2019) が正規日本版として作成されている
検査結果とデモグラフィックデータ(エクセル)は、以下のファイルにまとめられている
失語症のある方:①デモグラフィックデータシート (demo-data)
②失語検査結果シート (英語版はenglish-results-data)
失語症のない方:①デモグラフィックデータシート(demo-cont-data)
コードの解説はワードのdemo(失語症のある方)とdemo-cont(失語症のない方)参照。訳は当HPにある。
有名人課題(Famous people) の流れ
概要
有名人課題は、AphasiaBank に含まれる、談話課題とならぶもう一つの課題。失語症者のコミュニケーションスタイルや伝達方法を楽しみながら探る課題で、参加者は有名人(1970年以前生まれ・アメリカ文化をよく知っている人にとって知られている人)についての会話を行う。
手続き
Keynoteかパワーポイントで有名人の写真を提示し、名前や職業などを答えさせる
採点
口頭・書字・描画・ジェスチャーによる回答を正答とする
名前を問う質問
3点 有名人の名前(姓または名)を言える(本名ではなく役名を答えても正答)
またはその有名人と特定できるキーとなる情報を答える(その歌手の持ち歌を歌うなど)
2点 有名人の名をヒントとして出せば姓を言える
またはその有名人を特定できるほどではないが間違っていない情報を2つ以上答える
1点 3つのyes-no質問に正答可能(3点も2点も取れない場合のみyes-no質問をする)
その他の質問
正誤により1点または0点を与える(ヒントはなし)
*誤答であった場合はその場で正答を伝える
CHATにおける失語症状の表記法 (英語版)
失語症状のコーディング
I. 単語レベルの誤り
[* p] 音韻の誤り [* s] 意味性の誤り
p:w 単語への誤り s:r 意味性錯語、目標語判別可能
p:n 非語への誤り s:ur 語性錯語、目標語判別不可能
p:m 音位転換 s:uk 単語、目標語不明
s:per 保続
[* n] 新造語
n:k 新造語、目標語判別可能
n:uk 新造語、目標語不明
n:k:s 新造語、目標語判別可能 常同言語
n:uk:s 新造語、目標語不明 常同言語
[* d] 非流暢性
d:sw 1つの語の中で非流暢が生じた
[* m] 形態素の誤り
m:a 一致 haveとhasなど
m:c 格case
m:0s 複数形を欠く
m:0's 所有のsを欠く
m:0es 三単現のsを欠く
m:0ing 現在進行形のingを欠く
m:0ed 過去のedを欠く
m:=ed 過剰汎化により過去形にedをつけた
m:=s 過剰汎化により複数形をsにした
m:+s 不必要にsをつけた
m:+ed 不必要に過去形にした
m:+ing 不必要に進行形にした
m:++s 複数形sの重複
m:m 形態素・音韻の誤りknivesを knifes にしたなど
[* f] formal lexical device
f:a:0:d 冠詞は不要な箇所にtheをつけた
f:a:0:i 冠詞は不要な箇所にaをつけた
f:a:d 定冠詞をつけるべきところに不定冠詞を使った
f:a:i 不定冠詞を使うべきところに定冠詞を使った
f:p 語の一部の誤り、派生語を使った、myの代わりにmeを使ったなど
0 語や一部の省略 -- 0art, 0aux, etc.
II. 発話レベルの誤り (発話の末尾につけるコード)
[+ gram] 文法的誤り
[+ cir] 迂言
[+ per] 保続
[+ jar] ジャルゴン
[+ es] エンプティスピーチ